NPO法人水力開発研究所設立趣旨書

2017年11月2日

(1)背景と水力開発が進展しない現状の問題点

 再生可能エネルギーとしての水力開発の必要性が認識されるようになり、様々な事業主体が水力発電の開発を試みている。水力発電は、安定した発電が持続的に可能な純国産エネルギーとしての電源としての価値のみならず、環境面、地域社会への貢献面から多様な価値を発揮できる可能性を有している。5年前の2012年7月に固定価格買取制度(FIT)が施行され、発電した電力の売電単価は以前(RPS法)の3倍以上になったにもかかわらず、本格的な開発は進まない状況である。全国の水力関係者にアンケート調査を行ってその原因を調べた結果、開発現場には事業の採算性と合意形成に関する問題があり、その背景には水力の価値の理解の共有、国の総合的な開発戦略・推進体制と水力関係者への支援に弱さがあることが明らかになった。
 日本の水力発電は、戦後の電気事業の再編以降、電力会社や公営電気事業者が中心となって取り組んできた。高度経済成長期に電力需要が急増する中で、水力発電は規模が小さく発電原価が割高、規制が厳しく地元の合意形成が困難で開発に非常に長期間を要する等の課題があって、電源の主役は火力・原子力発電、そしてこれらとセットで利用する揚水式水力となった。その結果、本格的な一般水力の開発はこの30年間行われておらず、水力開発の人材育成は停滞し、現役の専門家が著しく減少している。また、自然環境や社会環境と調和した中小水力開発の技術や制度が本格的に検討されないまま現在に至っている。

(2)水力開発の合意形成、環境適合性、経済性、および支援体制の改善の必要性

 今、エネルギーセキュリティ、地球温暖化対策、そして地域の活性化が国の重要課題になり、エネルギー問題に対して国民全員の参加が求められる時代になっている。
 水力発電は、公共の場において、地域の共有財産である河川水を長期にわたって利用するものである。また、自然や地域社会を相手に取り組むことから、多様な専門分野と経験を必要とする特徴がある。これまでは、資金力・技術力がある地域外の企業が開発を行い、水資源を提供する地元との間には利益背反の関係がり、合意形成が大きな課題であった。今後、全国で水力開発を本格的に進めるためには、地域の人々が自ら、エネルギーや環境、地域のくらしと水力開発を関連付けて考え、地域に公益をもたらすように取り組む必要がある。しかし、地域には必要な知識・経験と技術、資金が不足している。このような問題を解決するためには、これまで蓄積した技術と経験をフルに活用して、信頼性・採算性が高く、地域に永続的に貢献する、地域と外部の専門家・資本が一体となった環境調和型の水力開発の事業モデルを構築する必要がある。そして、これを全国に展開するための人材を育成し、水力開発に係る様々な課題を抽出して継続的な改善につなげるための推進・支援体制が必要である。
 これまで、私たちは有志で水力研究会を設置して、地域の関係者を支援し、地域に貢献する水力開発の主旨に賛同する企業等と開発のための課題について議論してきたが、受託契約ができない等の不便があり本格的な活動が進まない状況であった。NPO法人になった暁には、書類の作成・提出、情報公開を適切に行うことによって社会的信用を得、事業運営の効率向上と拡大を図り、環境にやさしく、地域に永続的に貢献する水力開発の実現を推進することで、人と自然の調和がとれた環境社会づくりに寄与する。